勝新さんを忍んで 座頭市の旅の終わりに座頭市の旅の終わりにカツシンさんをを偲んで ひとり座頭市、そのたびは終わろうとしていた。 今までたくさんの人を、身を守るとは言えあやめてきた。 義理とか人情がすたれるなかこれだけは守ってほしいと願ったがそれがままならずやむにやまれずに仕込みを抜きはらい逆手斬りを…。話し合いでは何も解決しない刃傷沙汰、そんななかたで一人一人と斬っておりやした。何も思わなかったということはございませんでした。 真っ暗の舞台に小さな木漏れ日のようなサスが降りている。 その明りに浮かび上がるのは襤褸をまとった老いた男。 その相貌からしていつ果てるとも分からぬ佇まいである。 欲心も我欲も捨てた穏やかな貌のなかに恥るような瞳が遠望している。 ここまで書いて私が初めて勝新さんに会った時の事を思い出した。 彼が病で入院して少し良くなって全国各地へディナーショーに回っていた時に地元に来たので参加した。 スクリーンで見るよりは痩せて見えた。駅前のホテルで行われていた。数年か前には東山の中にある豪華なホテルで会費も10万円はしていたが、彼の値打ちが下がったのか、安くして多くの人達と楽しい場を作りたかったのかは、私は後者だと思う事にした。 大広間には数多くのテーブルが並びその上に豪華に食べ物が置かれてあった。舞台屋の私は明りと音に注目した。 しばらくして客殿の明かりが落とされステージに明りが降り注ぐと黒のタキシードに身をまとった勝新さんがマイクを持って佇み満面笑みを投げかけていた。 この人はいつ見ても無邪気なあどけなさを振りまいていることに私は心を和ませられた。 舞台で一曲うたった後降りてきて私の元へつかつかと近寄りにっこり笑ってあごひげを引っ張った。まるで旧知の仲のような雰囲気で私を包んだ。 私が勝新さんともっと前に逢っていたら心からの付き合いが出来たであろうことを思った。 彼はタキシードに身を包みきなれた身のこなしで右手にブランディーグラスを持ち左手にマイクを掴んで唄いながら会場回った。往年の名声はないにしても花が咲いて歩いているように見えた。 勝新さんを思い偲んだのは、奇しくも篠田正浩監督の「梟の城」の現場だった。そこは勝新さんが最後の作品「座頭市」を撮影した現場だった。その撮影中に事故が起こり客の方がなくなるという、最後の作品に汚点を残すものになった。 私が勝新さんを始めてみたのは「不知火検校」だった、二枚目俳優の勝新さんが頭を青々とそり盲目の検校を演じる、それも強欲で女を弄ぶという悪人を演じていた。長谷川一夫の跡を次ぎ、市川雷蔵との二枚看板の俳優が奇代の悪人の主役を演じきる、これはかつてなかった大博打であった。世の中は転んでみなくては分からないもの、それがヒットして「座頭市物語」へと流れていく、勝新誕生だった。それはシリーズ化され観客動員はウナギ登りとなるのであった。また、それに平行して「悪名」シリーズがヒットし追い打ちをかけたのである。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|